芸術療法(アートセラピー)とは、絵画や粘土などの創作活動を用いて行う心理療法のことで、思考や感情を表現するために、言葉を使わず芸術を用いるのが特徴です。
私たちの心の奥底にある深層心理や無意識を言葉で表現することは難しいと言われています。
そのような無意識領域にアクセスする方法の一つとして芸術療法が用いられているのです。
芸術療法は障害の有無や年齢に関係なくできるため、近年日本でも注目されていますが、そのやり方についてはあまり知られていません。
今回は芸術療法のやり方について、方法別に簡単に解説したいと思います。
芸術療法(アートセラピー)を始める前に知っておきたいこと
芸術療法(アートセラピー)の種類いついて
アートセラピーではあらゆる領域の芸術が用いられ、使われる芸術分野によって、特徴や方向性が変わってきます。
1,人間の表現(絵画、文章、彫刻、粘土、写真など)
2,表現に身をさらす(演劇、コント、ダンスなど)
3,人間と物で創り上げる物(マリオネット、仮面、化粧、道化など)
4,放射されるもの(声、音楽など)
アートセラピーを行う場合、どの芸術に分類されるか確かめる必要があります。
イメージを表現する
芸術療法は自分の中のイメージを具現化する手法と言えます。
イメージとは「心の中に思い浮かべる像」や「全体的な印象」のことで、心の中にあって言葉では説明できない視覚的や聴覚的な何かです。
イメージには自分の内面を、言葉よりも直接的で自由に表現できるという利点があります。
そのため芸術療法では私たちの心の中にある、自分では気づいていない無意識を表現する手法であることを理解しなければいけません。
例えば、イメージを目に見えるもので表現すれば絵画、耳で聞こえるようにしたものが音楽、触覚に働きかけるものは造形といった手法になるでしょう。
物語を作る
過去のトラウマなどがあり心に何かしらの問題を抱えている人は、過去の出来事を正確に語ることが難しい傾向にあります。
起きた出来事が自分の中で完結していないため、上手く表現できず、混乱してしまうのです。
しかし、過去の出来事を一つのストーリーとしてまとめることができれば、冷静に過去と向き合うことができる可能性が高まります。
物語を作ることで、起きた出来事は変えられなくても、それをどうとらえるかは変えられることを学べるのです。
そして、物語を作ることに、芸術療法を用いることができます。
物語を紙に書いたり、詩や俳句にすることもできます。
文字で表現することが苦手ならば、絵や粘土で造形物を作ってもらい、それを説明するというかたちで、物語を語ってもらえばいいでしょう。
このように「イメージ」、「物語」を意識しながらこれから説明する芸術療法を実践すれば、より効果を感じられると思います。
①絵画療法のやり方
芸術療法と描画
芸術療法の中で絵を描く手法を用いるものを描画法といい、その中に課題画法と自由画法が存在します。
課題画法は書く課題を与えますが、自由画法は決まりはなく、心に浮かんだことを自由に書く方法です。
描画法は絵という表現を通して、心の奥底にある無意識を知る手法です。
絵を通して自分の本当の思いや気づいていない感情を知ることを目指します。
今回は課題描画の一種である樹木画法のやり方について紹介したいと思います。
樹木画法のやり方
絵画療法の1つである樹木療法のやり方を紹介します。
樹木画法とは木の絵を書くことで自分自身を表現する方法です。
多くの場合、木は書いた人自身を表しており、これを投影といいます。
樹木画法のメリットは、たとえ自分のことを話したくない、話せないとしても、書いた木のことなら話せる可能性が高まることです。
木について話すことが結果的に自分を語ることになるのです。
書かれた木が1本なら書いた人を投影しており、2本以上なら書いた人の内側と外側だったり、他者との関係を表していると推測できます。
樹木画法のやり方ですが、画用紙などに実のなる木を自由に書いてもらうだけの簡単な方法です。
そして、書いてもらった樹木の部分をそれぞれ解釈していきます。
それぞれの要素が意味することを下の表に示します。
パーツ | 意味すること |
---|---|
根 | 心の安定、本能、無意識 |
地面 | 現実世界の認識の仕方 |
幹 | 自我の能力、性格やこれまでの生き方 |
幹の表面 | 自分と他者 |
枝 | 他者や環境への対処方法 |
葉 | 外観、装飾 |
実 | 利益、目標、結果 |
注意点としてこれはあくまで一例であり、絵が意味することを一方的に決めつけず、対話から明らかにしていき姿勢が大切です
②造形のやり方
造形と芸術療法
造形には陶芸、彫刻、粘土などがありますが、粘土が取り扱い易いという理由から最も普及しており、独特な触感や三次元イメージが可能なため絵画とは違う可能性があります。
また、粘土は幼稚園から小学校にかけて使われることが多く、たくさんの人になじみがあり、扱いやすい素材という利点もあります。
粘土の特徴とやり方
粘土には作品として何かを作るだけでなく、その独特な感触を味わうことにも意味があります。
粘土を形作る際に触覚的な刺激が得られることが大きな特徴です。
また、他の芸術療法と比べて可塑性が高く、何度でもやり直しがきくことも特徴の1つです。
ある程度乱暴に扱っても修復が可能なため、安心して取り組むことができます。
特に粘土特有の柔らかい触感は、触っているだけで楽しい気持ちになり、子どもの頃に戻ったような気持ちにさせてくれるのです。
過去のトラウマや精神的な障害がある方は遊ぶということを忘れてしまっていることが多いです。
粘土を使った自由な発想や想像を通して、自信や自発性を高めることで、遊ぶ喜びを思い出すことができます。
また、粘土のやり方の1つとして、1人ではなく家族など複数人が一緒に行う家族粘土療法があります。
家族が共に粘土の触感を共有しつつ、造形活動を楽しむのです。
不登校や家庭内暴力などに効果があり、子どもだけでなく、保護者や兄弟も一緒に粘土を用いることで、家族全員のストレスや心の傷を癒すことが期待できます。
③箱庭療法のやり方
箱庭と芸術療法
箱庭療法は、患者が自発的に砂の入った箱の中にミニチュア玩具を置き、また砂自体を使って、自由に何かを表現したり、遊ぶことを通して行う心理療法です。
箱庭療法は既存の箱、砂、フィギュア、ミニチュアなどから空間を構成するもので、広い意味での芸術療法の一種とされています。
この療法では、砂やミニチュア玩具のイメージを活用してアイデアを広げ、上手下手ではなく、具体的な現実生活に近い表現から抽象的な非現実的な表現まで可能です。
箱庭療法の特徴として以下のものが考えられます。
・非言語性
言葉を用いずに表現できる。よって言葉にならない葛藤やイメージを表現しやすい。
・簡便性
砂にフィギュアを置くだけなので、手先の器用さなどを気にせず取り組める。よって年齢(子供から高齢者まで)関係なく幅広く用いることができる。
・触覚性
砂、フィギュア、ミニチュアの手触りが患者にもたらす効果がある。
・視覚性
患者が表現したいものが目に見え、視覚的に理解できる。
・反復性
出来上がりが気に入るまで何度でも変更可能。実験のように砂をならしたり、フィギュアやミニチュアを動かしたりできる。
・参加可能性
求められれば支援者や家族が途中から制作に参加できる
・ドラマ性
1回の作成にも複数回の作成にも物語が展開されることがある。
・完結性
表現や活動が用意された砂や箱の中で完結できる
これらの特徴を利用して、今まで気がついていなかった自分の心身の状態や動きが直接的に感じることができます。
箱庭療法はトラウマの治療や神経症、心身症、パーソナリティ障害など幅広く用いられている手法です。
箱庭療法の注意点
箱庭療法は砂やフィギュアを利用してアイデアやイメージを広げていくことが重要です。
よって、そこに上手い下手は関係ありません。
支援者は患者と一緒に箱庭づくりの過程を味わいますが、口や手を出さないように注意が必要です。
フィギュアやミニチュアで遊びだしたり、砂遊びが始まって作品にならないようなときでも、それに意味があるので、制止しないようにしましょう。
④演劇のやり方
演劇と芸術療法
芸術療法の中には自分や他の参加者の身体を用いて表現を行う技法があります。
例えば、言葉では上手く表現できず、絵画や造形は手先の器用さから自信がなくてためらう場合に有効です。
具体的にはダンスや心理劇などがあります。
私自身は芸術療法の一部である演劇を経験し、実際に効果を感じることができました。
演劇により感じた効果を下に示します。
- 自分の問題を支援者や参加者が共感できる。
- 安全な場所で自分の問題を再現し味わうことができ、自分自身の思考や感情をより深く理解することができる。
- 言葉にすることが難しいことでも物語やたとえ話にして表現することができる。
私は過去のトラウマを演劇により再現することで、「あの時本当はどうでしたかったか」、「本当は何を感じていたか」など知ることができ、自己理解を深めることができました。
そして、それをまわりの人たちから認めてもらうことで、心の癒しにもつながったのです。
演劇のやり方
演劇には特に筋書は決まっておらず、やり方としては、参加者がある役を演じながら、即興的・自発的に劇を進めていきます。
役割を演じることでアセスメントや治療の効果が期待されています。
心理劇に必要な要素は監督、演者、補助自我、観客、舞台の5つで、それぞれの役割を次に示します。
監督―心理劇全体の責任者。演出家やセラピストの役割。
演者―役割演技(ロールプレイ)をすることで、感情や行動が変わるきっかけを知ることができる。
補助自我―助監督や補助セラピストの役割。監督や演者を助ける。
観客―劇を見る人。演者と一体になることでカタルシスを得たり、演者に共感的なフィードバックを与える。
これらの要素がそろっていることが理想ですが、可能な役割だけでも、あらかじめ設定を決めておけば、その枠組みの中で演劇を行うことができます。
より詳しく芸術療法(アートセラピー)のやり方を学びたい方は
この記事では芸術療法(アートセラピー)のやり方を簡単に説明してきましたが、より詳しく学びたい方はアートセラピー資格資格取得講座の受講をお勧めします。
なぜなら、芸術療法について詳しく知らない人が、セラピーを行うと、場合によっては逆効果になる可能性があるからです。
芸術療法の対象となる人は、複雑な背景を抱えている人が多いのですから注意が必要です。
講座を受講することでしっかりとした知識を身に着けることができます。
アートセラピーの資格は次のような人におすすめです。
・自分や家族の健康の為にセルフケアに役立つ学びをしたい方
・人のために役立つ統合医療の知識を学び、自身の仕事に活かしていきたい方
・好きなこと、興味関心のある分野で資格を取得して自信をつけたい方
・スキルアップや独立開業に役立てられる資格取得を目指したい方
芸術療法は欧米を中心に発達してきたため、日本ではまだマイナーなイメージがありますが、少しずつ国内でも注目さてきています。
そのような状況に合わせ、芸術療法の専門家を育成するためのアートセラピー資格というものが制定されました。
オンライン講座なので低価格で好きなときに受講することが可能です。
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まとめ
今回は芸術療法(アートセラピー)について、特に絵画、粘土、箱庭、演劇のやり方について簡単に解説しました。
しかし、芸術療法はこれ以外にも様々存在しています。
コラージュ療法、音楽療法、文芸療法など。
どの方法にも共通していることは、作品の上手い下手や、完成度は関係なく、作品の制作過程や制作後にどのような気づきがあるかです。
実際に芸術療法を試してみるとわかりますが、子供のころに戻ったような気持ちで、夢中になって取り組むことができます。
精神的な苦しみのせいで、忘れかけていた遊び心を思い出させてくれることが芸術療法の最大のメリットだと感じました。