いじめ後遺症が治らない人に試して欲しい、15の克服方法

※本ページはプロモーションが含まれています


いじめ

幼少期に受けた心の傷は簡単に消えることはありません。

特にいじめや虐待といった長期間にわたる慢性的なストレスは、その後の人生に大きな影響を及ぼすことがわかっています。

いじめや虐待は、その行為が終われば救われるわけではありません。

後遺症との戦いがそこからスタートするのです。

近年「いじめ後遺症」という言葉をよく耳にするようになりましたが、ようやく「いじめ行為」による心身の後遺症について詳しいことがわかってきました。

今回は

  • いじめ後遺症がなかなか治らない人
  • 過去にトラウマがある人
  • 後遺症による辛い症状を克服したい人

に向けた内容になっています。

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参考書籍

今回参考にした書籍は

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法

トラウマと記憶: 脳・身体に刻まれた過去からの回復

トラウマをヨーガで克服する

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケア

です。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法はトラウマ治療の第一人者である、ベッセル・ヴァン・デア・コーク先生が書いた書籍になります。

この本にはトラウマのすべてが詰まっているといっても過言ではありません。

いじめ後遺症を克服するヒントがたくさん詰まっています。

その他の書籍も、いじめ後遺症を克服するうえで、役に立つ知識が多く記されていました。

この4冊の書籍はいじめ後遺症だけでなく、過去のトラウマに悩まされている全ての人に参考になると思いす。

目指すべき場所

いじめ後遺症を克服するとは、いったいどういうことなのでしょうか?

「いじめを受ける前の自分に戻る」ことを目指している人もいるかもしれません。

私自身も、いじめ被害に合う前の明るく元気な自分に戻れたら、どれだけ幸せだろうかとずっと考えていました。

しかし、そこを目指してしまうと、いじめ後遺症を克服する道は非常に困難なものになります。

長期間のストレスは私たちの心に大きな負荷をかけ、身体や脳に変化を与えてしまいます。

言うなれば全くの別人格になってしまっているのです。

いじめ後遺症が治らないと感じている人の多くは、元の自分に戻りたいと願っていますが、それは非常に難しいと言えます。

いじめ後遺症に苦しむ人が目指す場所は、過去のトラウマを抱えながらも、今この瞬間を存分に生きることにあります。

心の傷を消し去るのではなく、心の傷を背負いながらも、より成長した人間として、自分らしく生きるのです。

そのためには、耐性領域にとどまることが重要になってきます。

耐性領域とは自律神経系が穏やかにリラックスしていられる範囲のことです。

過去に大きなトラウマがある人は、トリガーとなる出来事や情景に出会うといとも簡単に耐性領域を飛び出し、過覚醒や低覚醒に追いやられてしまいます。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の中ではこのように書かれています。

私たちは、何かのきっかけで過覚醒や低覚醒の状態になるときには、「耐性領域」(最適なかたちで機能できる範囲)の外に押しやられている。過覚醒の場合には、私たちは反応しやすくなり、混乱に陥る。フィルターが働かなくなるので、音や光に悩まされ、望みもしない過去の光景が心に侵入し、パニックになったり逆上したりする。低覚醒の状態で機能停止に陥ると、心も身体も麻痺しているように感じ、頭の働きが鈍り、椅子から立ち上がることも難しくなる。

p.336

いじめ後遺症のような慢性的なトラウマを抱えてきた人たちは、過覚醒や低覚醒を激しく繰り返しながら、次第に低覚醒状態に追いやられてしまうようです。

いじめ後遺症を克服するためには、過覚醒や低覚醒に陥りそうになっても、自分自身で耐性領域に戻すことができ、意識を今ここに集中させる必要があります。

そのための方法を紹介していきます。

意識を「今ここ」に保ち、いじめ後遺症を克服する方法

①仕組みを知る

まず、いじめ後遺症による連鎖反応の仕組みを知りましょう。

生物のストレス反応は、「トリガーとなる刺激」→「逃走反応」→「闘争反応」→「凍りつき反応」→「破綻反応」の順番で連鎖して起こることがわかっています。

このとき生じているのは自律神経系の変動ですが、自律神経系は副交感神経系、交感神経系、不動系(原始的な副交感神経)の三種類のシステムから成り立っています。

これについてはポリヴェーガル理論を知ると深く理解できると思います。

ストレスを感じたとき、人はまず愛着や社会交流をつかさどる副交感神経系によってリラックスしようとします。

それが無理だと、手足を動かして逃走・闘争で対処する交感神経系が働きます。

それでもどうにもならないと、不動系(原始的な副交感神経)が稼働して、からだを凍りつき・シャットダウンさせます。

トラウマの後遺症による慢性疲労や慢性疼痛は、最後の不動系による凍りつきやシャットダウンが起動している状態です。

つまり、それより前の段階、副交感神経系のリラックス反応や交感神経系の闘争/逃走反応で置き換えれば、症状をいくらか防げるということになります。

例えば、トラウマ反応がトリガーとなる刺激(A)→「逃走反応」(B)→「闘争反応」(C)→「凍りつき反応」(D)→「破綻反応,解離」(E)の順で連鎖的に起こるとします。

A→B→C→D→E(解離) のようなパターンがからだに染み込んでしまっているのに気づいたら、連鎖的に条件反射してしまう反応を一次保留する必要があります。

そのスキルを、マインドフルネスによって身につけるのです。

なだれのような条件反射を一次保留して、E(解離)が今まさに生じようとしていることに気づけるようになったら、たとえばA→B→C→D→Fのようにして、E(解離)をF(別の反応)で置き換えることで、症状をコントロールできるようになっていきます。

解離に先立って起こるトリガーや前兆に気づくことがてきるようになれば、続く反応を一時保留して、「代替的な対処戦略」に置き換えることができるとされています。

トラウマをヨーガで克服するはヴァン・デア・コークらによって開発されたトラウマ・センシティブ・ヨーガについての本ですが、トラウマの後遺症に対処するとは、すなわち別のツールで置き換えることだ、という点が次のように表現されていました。

ヨーガ・クラスでは解離が頻繁に起こることを覚えておこう。〈引き金〉は引かれる。それは避けることができない。

p.184

サバイバーは〈解離〉によって(体ベースの介入を試すことのような)手ごわい状況に対応することがあるということをわれわれは知っている。解離はこれまでもクライアントの多くにとって効果的な〈対応スキル〉であったし、これからもそれは彼らの〈目的〉にかなうものであり続けるだろう。われわれは、恒常的な解離は人を衰弱させて危険だということも知っている。〈引き金〉に取り組んで、それを安全で効果的な状態に行き着かせることのできる何か別のツール(たとえばグラウンディングのスキルや感情調整の戦略など)を、われわれはヨーガと一緒に提供しようではないか。

p.174

いじめなどのトラウマを負った人たちは、苦しい状況に直面すると、無意識のうちに解離によってその苦痛をやり過ごすことに慣れているので、その代わりとなる「何か別のツール」で置き換えることが必要なのです。

②無理やり抑圧しようとしない

いじめを経験し、後遺症が治らない人は自己抑制が強い傾向にあります。

たとえばそれは、ポリヴェーガル理論の提唱者である科学者スティーヴン・ポージェスがポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」の中で述べている次のような傾向の強い人たちです。

現代社会では、身体感覚についての重要性は無視され、軽視されてきました。自分の行動を管理する戦略として、私たちは身体が伝えてくるフィードバックを無視するように教えられてきました。…本当は立ち上がって動きたくても、長時間じっと座ったままでいるよう自分に言い聞かせます。トイレに行きたいという衝動を感じても、我慢します。お腹がすいても、食べるのを我慢します。これらの衝動や感情を抑制しているとき、私たちは生理学的過程を制御しているフィードバックループの感覚の部分スイッチを切っているか、少なくとも抑制しようと試みていることになります。

p.136

現代社会では、生理的な感覚を抑制することが重視されます。

じっと座っていなさい、授業中はあくびやくしゃみをしてはいけません、トイレに行くのを我慢しなさい、弱音をはいてはいけません、悲しくても泣いてはいけません、などなど。

トラウマの後遺症に悩む方は、特にこうした抑制が強すぎるストイックな傾向があり、不快感や痛みを感じても、弱音を吐かず辛抱し、忍耐して、「いい子」を演じて、ひたすら耐え続けようとしてきた人たちです。

そのうち、感覚が麻痺して、「スイッチを切って」しまうので、自分が無理をしていることにすら気づかなくなります。

からだがトリガーに反応しているのに無理やり抑制してコントロールしようとした結果が、交感神経系の超限界段階と、それに続くシャットダウンなので、強い意志力でからだの反応を抑えつけようとすればするほど、症状は悪化します。

反応を抑えつけるのではなく、別の反応に置き換える、それも身体が楽に感じる反応に置き換えるということをいつも意識してすると良いでしょう。

トラウマをヨーガで克服するで書かれているように、無理をして自分の意思を抑制している、あるいは身体に無理をさせているような感覚を少しでも感じたら、身体が楽なほうを選ぶようにします。

これは、エクササイズの中のどの時点でも、ぜひやってほしい〈選択のプラクティス〉である。もし今やっていることに何らかの苦痛があったり、自分を傷つけているような感じがあれば、それをやめるという選択をする。やっていることを、それ以上自分を苦しめないように変化させるのである。たとえば、〈首回し〉をやっていて首が痛いと思ったら、動きを小さくするなり完全にやめるなりして、「自分を苦しめることをやめる」という選択をする。このプラクティスで、あなたは〈自分自身を傷つけることをやめる選択をしている〉ということが分かる。これは非常に力のあるプラクティスで、いつでも行なうことができるものだ。あなたがこの時〈苦痛から自分自身を守る〉確約をしたことを、あなたの体はこれからも忘れないだろう。

p.164

いじめ後遺症の当事者は、セラピーに対してさえ、無意識にストイックに取り組んでしまう傾向があるので、痛みや辛さが生じたら、無理をして抑制するのではなく、必ず身体の感覚を優先して安心感を確保する、という方針を肝に銘じておくのは大切です。

③愛着システムを活性化させる

いじめ後遺症が治らない人にとって、一番望ましいのは副交感神経系の愛着システムを刺激してリラックスすることです。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の中にも次のように書かれています。

私たち人間が苦悩を軽減する最も自然な方法は、触れられて、ハグされて、体を優しく揺り動かされることだ。これは過覚醒の鎮静に効果をもたらす。そして、自分は損なわれておらず、安全で、守られていて、主導権を握っているという気持ちにさせてくれる。

p.352

トラウマ記憶に圧倒されそうになっている自分に気づいたら、信頼のおける人と会話する、心から笑う、愛する人と触れ合う、安心できる場所をイメージするなどして、副交感神経を活性化させることをおすすめします。

ただし、解離などの不動状態に陥りやすい人は、根底に愛着障害などがあるせいで、この副交感神経の機能が弱すぎて不動系に乗っ取られやすいと言えます。

トラウマ克服には、じっくりと愛着システムを強化していく辛抱強さが必要です。

いじめや虐待など、子供のころに否定されてきて人は、全力を尽くしていないと自分には価値が無いと思ってしまうことが多いです。

休んだり、遊んだりすることに罪悪感を抱いてしまう人は、安全な場所のイメージをしっかり形成しておくことで、辛い症状が出たときに対応しやすくなります。

④呼吸を整えて声を出す

愛着システムとつながっている副交感神経系は、人とコミュニケーションすることでリラックスするシステムです。

つまり、顔の表情やのどの筋肉、呼吸といった、からだの機能とつながっています。

不動系もまた原始的な副交感神経ですが、不動系が優勢になると、のどが締め付けられて声が出にくくなったり、呼吸系が圧迫されて息苦しくなったりします。

つまり、声や呼吸といった機能は、副交感神経のリラックス反応と、不動系(原始的な副交感神経)の凍りつき反応の影響がせめぎあい、競合している場所だということになります。

不動系により解離しそうになったときは、はっきり大きな声を出して歌ったり、声を出して笑ったり、ゆっくり深呼吸したり、マインドフルネスを実践したりすることで、副交感神経系を強化し、不動系を抑制することができます。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアでは、「ヴー」という声を出しながら息を吐くことが解離を解除するのに有効だとされています。

この音は内臓を開き、広げて振動させ、シャットダウンまたは過剰に刺激された神経系に新たな信号を送る働きをする。やり方はきわめて簡単である。「ヴー……」(「ユー」というときの「ウー」のような軽い「ウ」)という音を長く伸ばし、息を履ききるまで、お腹に感じる振動に集中する。「ヴー」の音をクライアントに初めて出させる際、私はよく、霧深い入り江に鳴り響く、霧笛を想像するように促す。船長たちに陸が誓いことを知らせ、安全に故郷に導くための音である。

p,150

ヴーという音を出す時には、息を完全に吐ききるまで、そっと響かせ続けます。

そして吐ききったら、無理に息を吸おうとするのではなく、息が自然と入ってくるに任せます。

頭が真っ白になったりブレインフォグにのっとられそうになったときに試してみれば、効果を実感できると思います。

ただし、トラウマ患者の場合、呼吸に注意を向けることにはリスクもあります。

一つ前の愛着システムの話と同様、呼吸を整えてリラックスできるようになるのは、最初はかなり難しいかもしれません。

辛くなったら無理をせず、止めてしまいましょう。

いじめ後遺症克服は、体や心に無理をさせることは禁物です。

⑤レム睡眠を確保する

近年の研究では、そもそもトラウマの原因は睡眠障害にあることが多いと考えられています。

いじめ後遺症が治らない場合、一度睡眠に目を向けてみると良いかもしれません。

睡眠不足、睡眠時無呼吸などでレム睡眠が妨げられると、本来レム睡眠中に処理する恐怖記憶が処理されず、トラウマ記憶として残ってしまいます。

また、睡眠不足の状態では、交感神経系が優勢になり、「逃走・闘争」反応に陥りやすくなります。

それはつまり、その次の段階の解離にも至りやすくなるということです。

トラウマの過覚醒と関連している睡眠障害には、一般に知られている睡眠薬よりもカタプレス、ミニプレス、インデラルのような降圧剤が効果があると言われています。

このタイプの薬は交感神経の過緊張を抑制するので、トリガーに過敏に反応してしまうような場合にも補助的に役立ちます。

⑥「安心の島」に意識を向ける

一連のトラウマ反応は「からだの記憶」です。

具体的に言えば、からだの一部分で、過緊張や虚脱などのトラウマ反応が繰り返されてしまうことにより、症状が起こります。

トラウマと記憶の関係についてはこちらの記事も参考にしてください。

トラウマはからだと結びついているので、「からだの記憶」の影響が弱い部位に注目したり、特定の姿勢をとったりすることが、リラックスに役立つことがあります。

人によってもともとのトラウマ経験や、トリガーとなる刺激は違うので、からだのどの部分にトラウマがしまいこまれ、またどの部分が安全かは異なっていて、自分で見つける必要があります。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にはこう書かれていました。

私たちはまず、体の中に「安心の島」を確立する。これは患者を助けて、身動きがとれなかったり、恐れおののいたり、激怒したりしたと感じたときにはいつも地に足の着いた心持ちになれるような、体の部位や姿勢、動きを突き止めてもらうことを意味する。こうした体の部位は通常、パニックのメッセージを胸部や腹部や喉に伝える迷走神経が分布していない場所にあり、トラウマを統合する際に味方になってもらえる。

p,402

安心の島は、パニックを伝える迷走神経、すなわち不動系が関与していない部分にあることが多いようです。

つまり、安心の島となる場所は、「パニックのメッセージを胸部や腹部や喉に伝える迷走神経が分布していない場所に」あることになります。

内臓のさまざまな不快感、たとえば胃腸の締め付けや息苦しさ、のどが締まる感じにとらわれたら、たとえば手足などの「安心の島」に注意を向けることで落ち着きを取り戻すことができます。

私の場合は、背中や胸のあたりに締め付けられるような、不快な感覚に陥ることが多いです。

それは、いじめを受けていた時、よく背中や胸のあたりを殴られていたからでしょう。

でも、手や足は何ともないように感じられます。

胸や背中の不快感に圧倒されそうになったら、意識を手や足に集中させ、その奥にある暖かさや、安心感を探るようにしています。

もし、全身にさまざまなトラウマを抱えすぎていて、身体的な「安心の島」を見つけるのが難しい人の場合は、心の中に「安心できる場所」のイメージを作り出す必要があるかもしれません。

まずは、自分の中に安心できる場所を見つけることができないと、いじめ後遺症の克服は難しいです。

もし、安全なイメージをつくれない場合には、子供のころに飼っていたペットや大事にしていたぬいぐるみなどをイメージすると安心感がわいてくるかもしれません。

要するに、何が「安心の島」や「安心できる場所のイメージ」になるかは人によって違う、ということです。

自分の生い立ちの中で、生きるための拠り所としてきた何かを用いることになります。

私が学校でいじめを受けていて、親にも助けを求められなかったとき、当時飼っていた犬が心の拠り所でした。

犬の頭をなでると、何とも言えない安心感に包まれたのを覚えており、その感覚を今でも大切にしています。

人によっては空想の友だちや架空の避難所が、安心できる場所として、心の中にすでに確立されているかと思います。

⑦闘争、逃走を完成させる

いじめ後遺症のようなトラウマ反応は、副交感神経系でリラックスできず、続いて生じる「闘争・逃走」の交感神経系でも対処しきれなかったときに生じます。

裏を返せば、「闘争・逃走」に成功すれば、いじめ後遺症を克服できるかもしれません。

マインドフルネスで内面を観察し、何かのトリガー刺激をきっかけになだれのごとく解離や疼痛・疲労の増強に至っていることがわかったなら、からだが危険を知らせて過緊張状態になった段階で、自分の意志でトリガー刺激から逃れることができます。

多くの人はいじめを受けているとき、戦うことも逃げることもできず、ただ身体を振るわせ耐えている場合がほとんどです。

でも、本当はあの時、思いっきりやり返したかったのじゃないんですか?

本当は学校なんか捨てて逃げたかったのじゃないですか?

本当は戦ったり、逃げたかったりしたかったエネルギーが身体の中に取り残された状態で、凍り付いてしまっているのです。

そのエネルギーがいじめの後遺症として、心身に様々な影響を及ぼします。

いじめ後遺症を克服するためには、闘争、逃走を完了させるということが必要なのです。

トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際のでは虐待を受けた女性が例にあげられています。

セラピストが両足の緊張に注意を向けるように促したとき、彼女は次のようにコメントしました。「私の足は逃げたがっています」。彼女は、虐待中には実行できなかった、本来は自分に力を与えてくれる防衛行動を発見したのです。この気付きで、ヴェラは、逃げるという衝動により意識的になり、足に「ちから」を体験しました。セラピストに励まされ、足に動く能力が備わっていると感じるために、セラピー中に立って室内を歩きまわりました。そして、その場で走りたいと言いました。

p,123

この場合、文字通りの場所から逃避したわけではありませんが、過去の遺物としてからだに残っていた未完了の逃走反応に気づき、それを活性化させることで解離の凍りつきを治療していきました。

不動系による解離は、手足を動かして抵抗できず、ただじっとして不快刺激を耐え忍ぶしかない状況で生じるので、手足を動かして刺激を押しやるような動作をしたり、伸ばした手をぐるりとまわして、自分のまわりに境界を作るような動作をすることで解離を防げるかもしれません。

安心感を感じるために必要な動作は、人によって異なります。

それは身体が本当はそうしたかったのに、無理やり抑え込んできた動作であることが多いでしょう。

いじめ後遺症が治らない人は、闘争・逃走反応を行いたかったのに、無理やりそれを押し込め、不動系によって凍りつかせ、じっと耐えていたことが多いのではないでしょうか。

身体が本当は何をしたかったのかを知るには、本文で詳しく扱ったように内的な感覚をじっくり観察し、「からだの声」を最後まで聞くトレーニングが必要です。

いずれにしても大事なのは、恐れに支配されて惨めに逃げ帰ることではなく、自分の意志でトラウマを遠ざけるということです。

惨めに追い立てられた経験は再トラウマになりますが、自分で選んでトリガー刺激から逃れた場合は、自信になります。

⑧はっきり「ノー」と言う

いじめ後遺症に悩まされている人たちは、自ら声を上げることがとても苦手です。

子どものころは、しばしば緘黙症と診断されることもあります。

いじめ後遺症が治らないのは、過剰同調性によって、まわりの空気を読みすぎ、身動きが取れなくなり、はっきりと声を出して「ノー」(いいえ)と言うことができないタイプの人たちなのです。

周りから「どう思われるだろうか」という気持ちにとらわれる恥は、身体の不動化(解離)への直行便です。

公衆の面前で恥をかかせるという行為は、公開羞恥刑と言われるほど、とても恐ろしい罰です。

現代のいじめやSNSの炎上、子ども虐待などが、いかに公開羞恥刑のようにして人を辱め、その結果、被害者の心を殺害し、解離させてしまいます。

苦痛を感じていても、「ノー」ということができず、判を押した口癖のように「大丈夫です」と受け答えしてしまうのは、自己抑制の強い人たちに特有のものです。

何を聞かれても「大丈夫です」とつい言ってしまうのは、たいていほぼ無意識の受け答えです。

本当は身体や心が苦痛を感じているときでも、それに気づけない失感情症や失体感症に陥っています。

こうした傾向は未解決のトラウマが身体反応として現れている、原因不明の慢性疲労、慢性疼痛、自己免疫疾患などの患者によくみられます。

これがいじめや虐待と言ったトラウマの後遺症なのです。

トラウマとは「ノー」と言えない逃げ場のない環境で無理やり何かを強制された体験から生まれるものです。

ですから「ノー」と言える環境を作ることは、トラウマからの回復に不可欠です。

トラウマをヨーガで克服するで解説されているトラウマ・センシティブ・ヨーガのプログラムでも、「ノー」と言える環境づくりは、重要な要素のひとつとされていました。

トラウマとは、“選択肢がない”状況の経験である。あなたが戦場で攻撃を受けた兵士なのか、虐待のある家庭で育った子どもなのか、あるいはひとりで道を歩いていて暴行を受けた女性なのか、そしてそこで起こったことが何なのか云々、ということは関係ない。この〈選択肢の深刻な欠如〉が、トラウマを受けた人たちの共通項である。それが、激流に呑み込まれた人、パートナーから虐待を受けた人、敵の攻撃を受けた海兵隊員、いじめを受け続けた子どもたちをつなぐものである。

p,69

誰にとっても〈選択の練習〉が必要であるが、特にトラウマを持つ人にとってはそれが大切である。

p,71

トラウマ・センターでは、ヨーガの生徒たちに次のような声明を出している。「…われわれは生徒がいつでも「ノー」と言える環境を保っている」。

p,186

トラウマの後遺症である凍りつきや麻痺といった反応は、危機に直面したとき、「ノー」と言えなくなり、ただあきらめてしまう受動的な反応だとみなせます。

解離の当事者は、日常生活の中で何かストレスの多い場面に直面したとき、その状況を打開するより、意識を飛ばしてぼーっとしてやり過ごすことを選びがちです。

親や上司に怒られたとき、反論したり逃げたりするのではなく、ただ意識を飛ばしてやり過ごす、あるいは望んでいないイベントへの参加を断れず、ただその時間を受動的にやりすごす、などです。たくさん思い当たる節があるはずです。

こうした対応はどれも、過剰同調性によって「ノー」と拒否することができなくなっていることから来ています。

拒否という具体的な行動を起こすより、受動的になって自分を殺して耐えるほうが楽だ、と無意識のうちに選んでしまっているのです。

空気を読みすぎる、気を遣いすぎる、周囲に自分を合わせすぎる、そのような「過剰同調性」のため疲れ果ててしまう人がいます。

「よい子」の生活は慢性疲労症候群や線維筋痛症の素因にもなると言われています。

しかし、はっきり大声で「ノー」といえるようになると、解離を解除できるようになります。

はっきりと「ノー」と抵抗し、自分の意思を保てるようにするのは、解離を他の反応を置き換える効果的な手段なのです。

⑨能動的になる

いじめ後遺症と思われる解離などの症状は、逃走も闘争もできず、どうにもできない無力感を抱いたときに生じます。

もはや万策尽きた、打つ手なし、とからだが感じたとき、最終手段として不動系がからだを凍りつかせ、シャットダウンするのです。

つまり、まだ自分には何かやれることがある、と感じているうちは、逃走・闘争反応で交感神経系が高ぶることはあっても、超限界段階まで押し切られることはなく、解離は生じません。

また、「逃走」が無理でも、自分の意志でしっかり「闘争」できれば、その次の「凍りつき」や「破綻」は生じません。

解離しそうになったときは、自分にもまだできることを見つけ、能動的に参加し、自分には間違いなくやれることがあるという感覚を持てれば、解離を防げます。

まず、自分にできることを探しましょう。

例えば、誰かに言われた言葉がトリガーとなって、過緊張状態が引き起こされ、超限界段階を迎えて意識がシャットダウンし、攻撃的な人格に乗っ取られる解離反応を起こしそうになったとします。

しかし、その一連のなだれのごとく引き起こされる反応の途中で立ち止まり、能動的に別の反応で置き換えると、意識が解離して乗っ取られることなく、「今ここ」にとどまることができました。

トリガー刺激に引き出されるままに条件反射を起こすのではなく、反応を保留して、自分でどうするか選ぶことにより、解離をとどめることができたのです。

はっきりと「ノー」と言うのは、自分を誘い出して解離させようとするトリガー刺激に対して「ノー」と述べて、自分のからだは自分が制御する、という意思表示をすることでもあります。

トラウマをヨーガで克服するには、トラウマの克服とはすなわち、主体感の回復であると書かれています。

このようなトラウマの治療プロセスには、“主体感と、コントロールしているという内的感覚(フェルト・センス)の回復”が含まれていると、われわれは確信している。

p.69

⑩姿勢を変える

ストレス反応は、すべて姿勢と結びついています。

副交感神経が優位になればからだはリラックスして自然体になり、闘争・逃走反応が優位のときは手足に力が入ります。

しかし、不動系が優位になって解離すると、からだが固まったり、力が抜けたりして、動けなくなります。

寝転がったり、座ったりしている姿勢では、不動系にのっとられて解離しやすくなりますが、立ち上がったり歩いたり、その場で手足を自由に動かしたりできれば、交感神経系を活性化させられるということです。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアには次のような例が出てきます。

しかし次の瞬間に彼はまた無表情に戻り、からだも諦めたかのように前屈みになった。私は彼に虚脱状態に陥ってほしくなかったので、膝を少し曲げて立ってみるように言った。立つことには固有受容的で感覚運動的なシステムの活性化と協調が必要とされる。このことはアダムの意識を常にオンラインにしておくという効果があった。

p,224

慢性疲労の虚脱状態のように、不動系によってシャットダウンされている人は、解離しそうになったら立ち上がったり段階的に運動したりすることで感覚を取り戻せます。

慢性的な解離によって常に低覚醒状態にある人は、体を動かしているとき(たとえば歩いているとき)のほうが、意識がはっきりして集中しやすくなります。

ただし、ここでいう動きとは、身体に負荷がかかる運動ではないということに注意してください。

ある程度回復してきたら運動も確かに効果がありますが、慢性的な凍りつき/擬態死状態のため、慢性疲労や慢性疼痛に陥っている人にとっては、負荷の強い運動は現実的ではありません。

身体を動かす目的は、身体の感覚に気づきやすくして、意識を引き戻すことであって、身体を鍛えたり無理にストレッチしたりすることではありません。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアに書かれているように、重要なのは内部の感覚に注意を向けることです。

片方の手で反対の前腕を優しく握る。次に上腕を握り、両肩、首、太もも、ふくらはぎ、脚などにも同じように行う。重要な点は、触れられたときに筋肉が内側からどのように感じられるかに気を配ることである。

p,138

ある程度慣れないと、感覚的にわかりにくいと思いますが、わたしたちの体の内部からの感覚というのは、脳の島(とう)や帯状回という箇所で処理されています。

解離状態にある人は、まさにその島や帯状回が活動低下していることが研究からわかっているので、体を動かして内的感覚に意識的に注意を向けることは、解離を和らげるのに役立ちます。

自分の内的感覚に意識を向ける方法として、ヨガや瞑想が有用とされています。

解離して、現実感が薄れたりふわついたりするときに役立つテクニックのひとつは、地面との接地感覚に意識的に注意を向ける「グラウンディング」です。

トラウマをヨーガで克服するには次のように説明されています。

解離は、常習化することのある圧倒的経験に対する反応である。重圧的な状況では、トラウマ・サバイバーはただ“頭が真っ白”になってしまったり、ボーっとしたりする。この反応のメカニズムは防衛的なものだが、特に意識的な統制のないところで起こると、それ自体が苦痛を引き起こし始める。トラウマ・センシティブ・ヨーガは、解離と闘うために使うことのできる「グラウンディング(地に足を着けること)」の戦略の開発を支援することができる。たとえば〈山のポーズ〉は、それが大地とのつながりに注目したり、感覚刺激として重力を利用したりすることから、きわめて〈グラウンディングな〉姿勢だと言える。

p,156

「山のポーズ」というのは特に難しいものではなく、単純にただまっすぐ立ったり、あぐらや正座で座ったりする基本の姿勢のことです。

それらの姿勢で、体の各部にかかっている重力を意識したり、地面と体の接地面の感覚に注意を向けて、意識的に感じ取ったりするのがグラウンディングです。

興味深い方法として、身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアによれば、立ち上がることのほかに、バランスボールの上に座ることで、解離を起こしにくくするというアイデアもあります。

解離状態の患者には、身体感覚を制御する脳領域(島および帯状回)の大幅な活動低下が認められた。これに対して立位の場合、固有受容、運動感覚の統合を介してバランスを維持するために、少なくとも何らかの内受容活動と気づきが必要となる。この単純な姿勢の変化が、クライアントが困難な感覚や感情を処理しながら からだの中にとどまっていられるかどうかの相違を生むことが多い。もう一つの効果的なバリエーションは、クライアントに適切なサイズのバランスボールの上に座ってもらうことである。ボールの上でバランスを保つことは、平衡維持のために複数の調整を必要とする。このため、ボールの柔らかい表面からのフィードバックを通じて内的感覚に触れることに役立つだけでなく、筋肉意識(気づき)、接地感覚、中心感覚、防衛反射および体幹の強さを探ることで、身体意識の発達に全く新しい次元がもたらされる。

p,140

私自身もやっていますが、解離しやすい人はいっそ自宅の椅子をバランスボールにしてしまうといいかもしれません。

転倒の危険がある場合は、バランスボールを固定するための土台や、座面だけバランスボールの椅子などを活用できます。

トラウマをヨーガで克服するでは「センタリング」というテクニックも紹介されています。

これは、体を動かしながら自分の重心を意識的に感じ取ることで、解離の不安定感から脱するテクニックです。

たとえば、ヨーガの「木のポーズ」(片足に重心をかけてもう片方の足は軽く添える)などをやりながら、自分の体の平衡感覚に意識的に感覚を集中させ、中心を感じ取るようにします。

ここでひとつ注意しておきたい大切なことがある。それは、トラウマ・センシティブ・ヨーガではおおむね、バランスという言葉をやめてセンタリングという言葉を使うようにしていることだ。「バランスをとる」と言うと、〈失敗〉(しっかりと保てるか、ぐらついて倒れるか)という意味が含まれるが、「センタリング」と言えば、それはより内的な探究を意味することになるので、失敗というニュアンスが少なくなる。実を言えば、われわれがセンタリングの訓練をするときには、事実上、バランスを崩すことを手がかりにしているのである。どういうことかと言うと、「われわれがふらつくと、そのたびに腹筋が自然に動いて、姿勢をまっすぐに戻してくれる」のである。われわれは“ふらつく”ことによって、自分自身の〈中心〉についてい大いに学ぶことができるのだ。

p,153

不安定なポーズをとることは転倒のリスクがあるので、最初のうちは、座った姿勢のまま上半身をぐるぐる回転させながら中心を意識するような、より穏やかなかたちのセンタリングがいいかもしれません。

いずれの場合も、自分の身体でいろいろ実験してみて、この姿勢をとったとき身体はどう感じているだろうか、としっかりモニタリングしてみることが大事です。

⑪ボディーワークに取り組む

姿勢や身体感覚を意識することによって、身体への気づきを促進し、いじめ後遺症を治すには、より体系化された専門的なボディワークに取り組むのが最善です。

習慣的な姿勢を変化させることで感情を整えるボディワークはいろいろありますが、たとえば 身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の中でヴァン・デア・コークは、フェルデンクライス・メソッドなどの手法を勧めています。

とはいえ、人は体の芯から安全だと感じなければ、完全に回復することはできない。したがって私は、治療的(セラピューティック)マッサージ、フェルデンクライス・メソッド、頭蓋仙骨療法といった、何らかのボディーワーク(手技や体操、運動などを通して体から意識に働きかける方法)を受けるように、すべての患者に勧めている。

p,352

そのほかにも、ソマティック・エクスペリエンスや、トラウマ・センシティブ・ヨーガなども、解離に特化したボディワークの一種です。

この記事は、近年注目されているトラウマの治療法「ソマティック・エクスペリエンシング」(SE)のやり方についてついてまとめたものです。

こうしたボディワークに取り組み、意識的に姿勢に注意を向ける練習をするなら、よりはっきりと今この瞬間の身体感覚を感じ取れるようになり、解離に抵抗しやすくなるでしょう。

注意しておきたいのは、ここで紹介したどの取り組みにおいても、「正しい姿勢」などというものはない、ということです。

この記事で扱っているさまざまなテクニックも、正しい方向性を示唆するものですが、正しい位置や正しいやり方といったものはなく、自分の身体の反応を見ながら、個人個人が見つけていく必要があります。

いじめ後遺症を克服するには、正しい姿勢に自分を矯正しようとすることではなく、さまざまな体の動きをする中で、自分にとって安定感の感じられる場所を探すことです。

一人ひとり感覚は違うのですから、普遍的な「正しさ」などというものにとらわれず、自分自身の固有の感覚に集中するようにしてください。

⑫リズムを上書きする

いじめ後遺症の症状は、トラウマによる身体の記憶によって引き起こされていると考えらます。

身体の記憶は一種のリズムで、それは交感神経系や不動系が起動すると、心拍が変動することからもわかります。

トラウマをヨーガで克服するでは、解離とは、一種のリズム同調の障害であることが指摘されています。

トラウマ・センシティブ・ヨーガのクラスでわれわれが携わっている多くのクライアントには、この協調性の欠如があるので、われわれは〈リズム〉というものに取り組んでいる。〈解離〉には、自分の体や周囲の世界との断絶感がある。ある生徒は解離を、「煙でいぶしたガラスで隔てられて生きているような感じ」と表現した。…彼らの人生は、しばしばベールの向こう側―人間関係を特徴づけるリズミカルな舞踏や交流からトラウマ・サバイバーを切り離してしまうベールの向こう側で、送られる。

p.82,p,83

いじめなどのトラウマを負った人は、いとも簡単に自分では望まない不安定なリズムに陥り、周囲の人たちのリズムから切り離されてしまいます。

トリガーとなる刺激にさらされると、からだは「闘争・逃走」に備えて心拍のリズムをぐんと上げます。

どうしようもない場合は、今度はシャットダウンの解離反応を起こし、心拍のリズムがぐっと下がります。

このような内部のリズム変動を制御するためには、音楽を聞いたり演奏したりして、トラウマ反応のリズムではなく音楽のリズムに同調すること、タッピングによって外からリズムを整えてやることなどが効果的です。

左右の眼球運動によって記憶を処理するEMDRでは、左右交互の両側性刺激が過覚醒を和らげることがわかっています。

それを応用したのが、自分で自分を抱きしめながら、左右交互にタップするバタフライハグです。

交感神経系が優位になって心拍リズムが早まり、過緊張になりそうになったときに落ち着かせることがてきます。

また、指圧のツボを順にタッピングするエモーショナル・フリーダム・テクニック(EFT)という方法も紹介されていました。

詳しくはこちらの記事も参考にしてください。

エモーショナル・フリーダム・テクニック(Emotional Freedom Techniques)は英語で検索すればやり方を解説した動画がたくさん出てきます。

不動系によってシャットダウンしてしまったときは、楽器を弾いたり、歌を歌ったり、好きな音楽を聞いたりすることで、リズムを上げて、不動状態から抜け出すことができます。

こうしたリズムを取り戻すための知恵は、さまざまな伝統技法の中にも見られます。

仁神術やヨーガ、さらには太極拳、気功など、古来より体系化された伝統的な治療技法に伝わる仕草や姿勢の中には、過覚醒を和らげ、自律神経系のバランスを取り戻すのに役立つ知恵が秘められているように思います。

これらの伝統技法は、西洋医学的には眉唾だとかプラセボにすぎないと言われることがありますが、ヴァン・デア・コークが身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法で書いているように、ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)から理解すれば、科学と伝統を一致させることができます。

だが、これらの型破りな技法がなぜこれほど効果があるのかを私たちが理解し、説明するうえで、ポリヴェーガル理論にはおおいに助けられた。私たちはこの理論のおかげで、トップダウンの取り組み(社会的関与を行なわせる)とボトムアップの方法(体の緊張を和らげる)を、以前より意識的に組み合わせるようになった。私たちはまた、呼吸法(プラーナーヤーマ)や詠唱(チャント)から、気功のような鍛錬法や武道、ドラム演奏や合唱、ダンスまで、西洋医学の外で長年行われてきた、他の古い、非薬理学的な取り組みの価値も受け入れやすくなった。これらの取り組みはみな、人と人との間のリズムや、内臓感覚の自覚、声や表情による意思疎通に依存している。

p.143-144

こうした伝統技法や音楽はさまざのな効果がありますが、ひとつにはリズムの同調を通して、トラウマ記憶によって乱された自律神経系のバランス改善に寄与します。

宗教上の理由などから、特定の技法に抵抗があり、治療に取り入れられない人の場合でも、トラウマ専用にカスタマイズされたソマティック・エクスペリエンスなど他のボディワークに取り組むことによっても同様の効果が得られます。

⑬感覚を感じて、意識をつなぎとめる

トラウマの後遺症でシャットダウンして意識が飛んだり、現実感が薄れたり、失感情症になったり、頭に霧がかかってブレインフォグに陥りそうになったりしたら、強い感覚刺激を与えることで意識を引き戻すことができます。

これは、自傷行為を行なう人たちが無意識のうちにやっている手法です。

自傷行為の中には、強い痛みによって、解離しかかっている意識を引き戻すために、無意識のうちに行われているものがあります。

あるいは、過緊張状態になって、超限界段階寸前に閉じ込められているとき、もうひと押しして解離してしまうために自傷する人もいます。

いじめ後遺症が治らない人の中には、自傷行為を行っている人もいますが、自傷行為は解離への往復切符です。

リストカット、抜毛、頭を壁にぶつけるなどの自傷行為、また自己破壊的な依存症の原因はどこにあるのでしょうか。

解離という心の働きや、脳の構造と関係しています。

もちろん、解離を食い止めるために自傷行為をするわけにはいきませんが、それと似た方法は使えます。

たとえば、冷やした氷枕のようなものを手に当てたり、パルスシャワーを浴びたりすれば、意識がはっきりします。

また、食べる、飲む、味わう、走る、セックスといった行動も、意識を引き戻します。

不動系が引き起こす解離とは、動物における仮死状態のことなので、生きている動物がふだんやっていることは何であれ、解離から意識を引き戻す作用があります。

しかしながら、いくら動物が生きていることを実感する活動とはいっても、食べすぎて過食になったり、トレーニングしすぎてアドレナリンハイ依存になったり、性依存なると危険です。

事実、トラウマ障害の人の中には、自傷行為をするのと同じ理由で、こうした依存症になってしまう人がいます。身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアはこう述べています。

自分のからだの内部を深く感じられなくなればなるほど、私たちは過度の外部刺激を切望する。

p.336

トラウマをヨーガで克服するでもヴァン・デア・コークがこう書いています。

多くのトラウマ・サバイバーの生活は、「望まない感覚体験を切り離して無効化し、その周りをぐるぐる回る」といったものになっている。少なくとも私の扱った、トラウマを負う人の半分は、自らの耐えられない内面世界をドラッグやアルコールでごまかそうとしてきた。そして、多くの人びとが、リストカットなどの自傷行為でそうした感覚を追いやることができることを学習する。また、オートバイ・レースをしたり、売春やギャンブルなど、リスクの高い行為に手を染めることによって「“自分が”やっている」という感覚を得たり、「“ハイ”(高揚した感じ)になって救われる」と言う人びともいる。

p.28

いじめのようなトラウマ記憶から意識を引き戻すために、別の刺激的な感覚で目覚めさせるという方法は、手っ取り早く効果的ではあるものの、こうした落とし穴がひそんでいることには十分注意すべきです。

そして、注意すべき点として、こうした依存症になりかねない刺激によって解離を解除するのは、じつは薬物療法もまた同様です。 

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にはこう書かれています。

人は昔からトラウマ性ストレスに対処するために、薬物やアルコール類を使ってきた。文化や世代によって、好まれるものは違う。たとえばジン、ウォッカ、ビール、ウイスキー。ハシッシュ、マリファナ、大麻、ガンジャ。コカイン、オキシコドン(オキノーム、オキシコンチン)のような麻薬様物質。ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)、アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)、クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)のような精神安定剤。人は切羽詰まると、もっと落ち着いて主導権を握っていると感じるためなら、どんなことでもしようとする。精神医学の主流はこの伝統に従っている。

p.367

つまり、何らかの刺激的な依存症によって解離を和らげようとするのは、精神安定剤などの薬物療法の場合も同じだということです。

こうした外的刺激は手っ取り早く症状に対処するのに役立ちますが、症状をコントロールするのではなく、無理やり抑えつけるだけです。

そのため、最も大切な自己コントロール力を身につける助けにはなりません。

だが、薬はトラウマを「治す」ことはできない。乱れた生理機能の表れを抑えることができるだけだ。また、自己調節を可能にする効果が永続するような教訓を与えてはくれない。感情と行動を制御するのを助けることはできるが、それには常に代償が伴う―なぜなら薬は、関与、モチベーション、痛み、喜びを調節する科学システムを抑え込むことによって作用するからだ。

p.368

解離やPTSDに対する薬物療法は、一時しのぎにはなります。

しかし、薬物療法のみによって症状を押さえ込もうとするなら必ず失敗します。

間違いなく副作用に悩まされるようになり、より泥沼にはまりこみます。

いじめ後遺症を克服するには、過度の外的刺激によって解離を解除するのではなく、マインドフルネスによって内部の感覚をしっかり探れるようトレーニングし、ここまで挙げた様々な方法を臨機応変に駆使して解離を防ぐのを目指すとよいでしょう。

⑭芸術に昇華する

最初に述べたとおり、いじめ後遺症が治らない人は、自己抑制が強すぎて、自分の気持ちを限界まで押しとどめて我慢するタイプの人たちです。

本当は自由に動き回りたい、全身で遊びたいのに、過剰同調性によってまわりの空気を読みすぎて、「どう思われるだろうか」という恥にがんじがらめにされて、自分の欲求を殺し、動けなくなっている人が、結果として不動系を起動させ、解離してしまいます。

それを克服する方法は、自由に動き回れること、特に「どう思われるだろうか」という恐れにとらわれて凍りついていた自分を解き放ち、思うがままに自己表現することです。

解離の不動状態に陥っている人は、動物園の檻で拘束されて走ることも飛び跳ねることも忘れてしまった動物のようなものなので、広いサバンナで自由に走り回る経験を通して、生き生きとした感情を取り戻すことが必要です。

その方法として、手足を含めたからだを動かすことはもちろん、芸術のようなかたちで、内なる自己を解放することも効果的です。

絵画や音楽、対話などによって、自己を表現することは、いじめ後遺症からの回復に役立つとされています。

また、トラウマなどが原因で解離を経験している人は、芸術的な感性が強い方が多いように感じます。

たとえ積極的に創作していない場合でも、文章の端々から感受性の強さがにじみ出ているのがわかります。

まるで、意識せずとも「言葉で絵を描いている」ような感じです。

いじめ後遺症のようなトラウマに苦しんでいる人たちは、たとえ今まであまりやったことのない芸術活動であったとしても、思い切ってやってみると感性を発揮して楽しめる可能性があると思います。

しかし、芸術活動に挑戦する際には、注意すべきことがあります。

解離から抜け出すために創作を始めた場合でも、ある程度上達してくると、SNSや展覧会などを通して他の人に見てもらいたくなるかもしれません。

自分が楽しむための創作から、人に見せるための創作に変化してしまうと、とたんに見られることによる恥の感情が入り込み、創作活動そのものが解離を促進する温床になってしまいます。

さらに、創作活動はしばしば気分の高揚をもたらすので、先ほど書かれていたような『「“自分が”やっている」という感覚を得たり、「“ハイ”(高揚した感じ)になって救われる」』感覚を求めて創作するようになってしまいがちです。

そうなってしまうと、ランナーズハイなどと同様、走っている間(創作している間)だけは気分が高揚して解離がましになるものの、それが終わると虚脱感に包まれて解離状態に戻る、というオンオフ状態を揺れ動くようになってしまいます。

創作活動は自己表現の一環として確かに助けになりますが、それだけで解離に対処することは不可能なので、必ずこの記事で考えたような他の技法を組み合わせ、日常生活の中の創作をしていない時間にも活用できるツールを持っておくべきです。

⑮コントロールを奪われそうになったら

この記事で紹介したような様々なツールをすべて使っても、交感神経が高ぶったり、からだが凍りついたりするのを止められず、どうにもならなくなってパニックになりかけるときがあるかもしれません。

その場合は、基本に立ち戻ります。

基本というのは、本文のほうで詳しく説明した、自分をモニタリングするマインドフルネスのことです。

何をやってもあらがえず、コントロールを失いかけているときは、言い換えればA→B→C→D→Eという連鎖反応がなだれのように進んでいる状態、いちばん最初の元のもくあみに戻ってしまっているということです。

このなだれのような一連の反応に流されるのを食い止め、立ち止まって自分の身体感覚をただ観察するのが、基本となるマインドフルネスでした。

マインドフルネスは、トリガーとなる刺激にさらされても、ただ観察することに徹し、反応を一次保留するためのスキルです。

この記事で紹介したさまざまなツールは、それができていることを前提として、マインドフルネスの一時停止ができた上で、次の反応を別の反応で置き換えるためのツールでした。

車で例えると、一旦停止ができた上で、右に曲がるか左に曲がるか選べるようになります。

いじめ後遺症が治らない人は、なだれのごとく連鎖反応に呑まれ、この基本となる一旦停止のスキルが失われているということです。

コントロールを失いかけたなら、パニックになって焦ったり、ここで紹介したツールを必死になって色々試したりするのではなく、一時停止を意識しましょう。

いじめ後遺症を克服するには、まず「今この瞬間」のからだをただ観察し、条件反射を保留するマインドフルネスに立ち返ることが必要と言えるでしょう。

それでもいじめ後遺症が治らない場合は?

ここで紹介したようなツールを意識的に使おうとしていても、努力するのがしんどくなってしまい、以前の無秩序なやり方に逆戻りしてしまうことがあるかもしれません。

それはごく普通のこと、当たり前のことです。

なぜなら、たとえ思考が働かない解離状態であっても、また慢性疲労や慢性疼痛のような苦しみが伴う凍りつきや擬態死状態でさえも、ストレスに対してそのように反応することが、あなたの身体にとっては「楽」な方法だからです。

いじめや虐待のような長期間にわたる極度のストレスを経験した人は、リラックスしたり落ち着いたりすることには慣れておらず、凍りついて緊張したりするのが、長年慣れ親しんだ習慣的な体の反応になってしまっています。

たとえ苦痛を伴うとしても、慣れ親しんだやり方のほうをついついやってしまうというのは、ごく自然なことです。

毎回指が痛くなるとしても、慣れ親しんだ鉛筆の持ち方や癖になった投球フォームをやめられない人と同じです。

とりわけ、慢性的なトラウマを耐えてきた人は、いやなことに対して「ノー」と言うより、相手の意向に合わせて同調するほうが得意です。

何かを楽しむより、たとえ苦しくても無言で辛抱することのほうが慣れています。

苦痛に対する耐性は尋常でなく発達しているのに、人生を「楽しむ」ことに対する耐性がほとんどないので、心底リラックスして楽しむという普通の体験ができないのです。

ここで取り上げているツールはすべて、体にとってより楽になる方法、よりリラックスできる方法を模索するものです。

しかし、いじめのような慢性的なトラウマを負った人は、そもそも子ども時代から安心したりリラックスしたりする経験をほとんどしていないので、リラックスするとかえって不安がつのり、凍りついているほうが楽だと感じてしまいます。

それゆえ、いじめ後遺症の治療については必ず逆戻りがあり、なかなか治らないと感じてしまうのも当然です。

治療が後戻りしたとしても、自分を責める必要はありませんし、失敗したと感じる必要もありません。

焦って自分の能力以上のことに取り組もうとしないでください。

ここに挙げたいじめ後遺症を克服するためのツールはどれも、ストイックに修行するかのように身につけるものではなく、自分の体に心地よく感じてもらうためのツールであることを忘れないでください。

いじめ後遺症が治らないと焦ってしまう時は、それがごく普通の当たり前のことだと受け止めて、また余裕があるときに少しずつチャレンジしてみましょう。

長年にわたって染み付いた「体のやり方」という習慣を変えるのは、数年単位の時間がかかって当たり前なので、ゆったり構えて、少しずつ取り組んでください。

まとめ

最初にも述べましたが、今回紹介したいじめ後遺症を克服するための方法は、耐性領域に留まることを目的としています。

多くの方法を紹介しましたが、大切なのは「自分には何かできることがある」という感覚です。

逆に言えば、「もう打つ手はない」と思った瞬間、からだの生物学的本能が解離を選び、選択肢を放棄します。

まずは、この記事で紹介したような方法を、自分のツールボックスに入れ、少しずつ試してみましょう。

多くの克服方法を知っていれば、ひとつうまくいかなくても、ほかに様々な方法がツールボックスに入っているので、まだまだやれることはあるはずだ、という心の余裕が生まれます。

今回紹介したいじめ後遺症を克服するための方法は、すべて身体志向のセラピーであることを忘れないでください。

頭で理解するのではなく、必ず、ひとつひとつ、具体的なからだの動作として実践して体験することをお勧めします。

※参考書籍

プロフィール
サカキ

幼少期に虐待、いじめを経験。トラウマに苦しめられる日々。
見返してやろうと奮闘するも、何事もうまくいかず・・・
それでも普通に働いて、幸せを感じられるようになりました。
自分に効果があった方法(治療法、心理学、スピリチュアルなど)紹介していきます。

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