トラウマとは「消えることのない心の傷」です。
時間は解決してくれないし、時と共に傷が深くなっていく場合もあるのです。
時間は傷を覆い隠すだけで、身体はトラウマを確実の憶えています。
そして、その傷が身体に異変を来たし、様々な精神疾患や原因不明の痛みというかたちで表面上に現れるのです。
つまり、根本にあるトラウマを癒さなければ、苦しみが永遠に続くかもしれなません。
そして、治療は早ければ早いほど良いのは当然なのです。
1、現在のトラウマ治療方法
現在のトラウマ治療の主流は、症状に対する薬物療法と認知行動療法やカウンセリングなどの暴露療法となっています。
暴露療法はトラウマ記憶を思い出し、語ることで、徐々に身体がトラウマに対して反応しなくすることを目的としています。
しかし、この暴露療法は高い成果を上げているわけではありません。
それどころか、トラウマを語ることで恐怖や不安に圧倒され、再トラウマ化される危険性があるのです。
そもそも、トラウマを正しく他人に伝えることは非常に難しいと思いませんか?
トラウマ記憶は通常の記憶とは全く異なり、自分の意志とは関係なく、フラッシュバックのように思い出され、パニックに陥ってしまうからです。
必要なのは言葉による語りではなく、体による語りなのです。
体を無視して主に思考にのみ注意する(トップダウン)アプローチは限界があります。
一方、ボトムアップによる治療は、まず体の語りを扱い、そこから少しずつ情動や認知、知覚に取りかかるのです。
身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の中ではこう書かれている。
トラウマを、それと結びついた感情のいっさいとともに思い出しても必ずしもトラウマは解消しないのだ。私たちの研究は言語が行動の代わりになるという考えを支持しなかった。認知行動療法の柱である暴露療法の研究からも、同様のがっかりするような結果が出ている。この手法で治療を受けた患者の大多数が治療終了後三ヶ月の時点で、相変わらず深刻なPTSDの症状を見せるのだ。いずれ論じられるように、人は自分の身に起こった出来事を説明する言葉を見つければ、大きく変るかもしれないが、必ずしもフラッシュバックが無くなったり、集中力が高まったりするわけでもないし、人生に生き生きとかかわれるように促されたり、失望や自分が受けたち認識している心身の傷に対する過敏性が和らいだりするわけでもない。
p.321
認知行動療法はクモに対する不合理な恐れについては有効であるが、トラウマを負った人、とりわけ児童虐待を受けたことがある人には、あまり成果をあげていない。PTSD患者のうち、何らかの改善を見せたのは三人に一人にすぎない。認知行動療法を終えると通常はPTSDの症状は改善するが完全に回復することは希だ。ほとんどの人は健康や仕事や心の健全性にかなりの問題を抱え続ける。PTSDに対する認知行動療法の臨床研究中、公表された最大規模のものでは、3分の1を超える参加者が脱落し、残りの人々には有害な副作用があった。女性のほとんどは研究に三ヶ月参加したあとも、依然として本格的なPTSD症状を示しており、主要なPTSD症状が消えたのは15%だけだった。暴露療法が最も効果が薄いのは精神的に敗北した患者、すなわち諦めてしまった人が対象の時だ。
p.362
身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアの中でも
患者たちは、長年にわたって苦しい症状に苦しめられることが多かった。永続的な変化は主に心理的なトップダウン処理(合理的な思考や認知や規律ある行動の選択から始める)ではなく、主にボトムアップ処理(身体的、生理学的な感覚にフォーカスすることを学び持続的に知覚、認識、判断に発展させていく)によって起こる。
p.334
このようにトラウマの世界的権威達も暴露療法の効果を疑問視し、ボトムアップの治療を重要視しているようです。
今回は体の中に固く凍り付いてるトラウマを安全に溶かす、ボトムアップによる治療法の中から私が効果を感じた6つの方法を紹介したいと思います。
2、ボトムアップによる6つの治療法
①マインドフルネス瞑想
トラウマを克服するためには自分の身体の中でいったい何が起こっているのかを知らなければいけません。
そのために私が一番効果を感じた方法がマインドフルネス瞑想です。
実際に瞑想を行って感じた効果はこちらの記事に書いています。
私たちは日ごろ意識を自分の外側ばかりに向けてしまっています。
誰かに認めてもらえれば嬉しいし、信頼している人に裏切られると一気にどん底まで落ちる。
このように外側によって自分の心を支配されているのかもしれません。
大切なことは自分の内面、内側に意識を向けることです。
しかし、トラウマを負っている人は自分の内面に意識を向けることを避けてしまいます。
なぜなら、我慢できそうもない不快な感情を感じることが怖いからです。
だから、その不快の感覚を感じなくて済むように外側に意識を向け誤魔化しているのです。
だが、体内のこうした感覚を感じるのを避けると、その感覚にますます圧倒されるようになってしまいます。
トラウマ克服のための第一歩は自分の内面と向き合い、自分の感じていることを正しく感じることなのです。
そのために一番有効な手段が、マインドフルネス瞑想です。
瞑想によって体を意識すれば、私たちの内部の世界に接することができます。
静かな場所で目を閉じて、自分の感覚に集中し、ただ感じることだけを意識するのです。
その感覚に余計な判断を下してはいけません。
自分が今どのような感覚を感じているか、気づくことから始めなければいけません。
自分の感覚、苛立ちや、心配、不安に気づきさえすれば、物の見方を変えやすくなります。
普段は不安や恐怖の感情に襲われると無意識的に反応してしまう状態から、瞑想によって内面に意識を向け、 不安や恐怖 に気づくことができれば習慣的な反応ではない、新しい選択肢を得ることができるかもしれません。
また、マインドフルネス瞑想は、永遠と続くと思えてしまうような、トラウマによる不快な感覚や体調の異変も一時的なものであることを教えてくれます。
どんなに辛い症状も内面に意識を集中させ、注意を払うと情動が満ちたり引いたりするのを認識でき、不快な感情は永遠ではないことに気づくでしょう。
それとともに情動を抑制しやすくなります。
トラウマを負っている人はいつ襲われるか解らない、過覚醒状態(パニックや混乱)や低覚醒状態(解離)の感覚を感じること自体に恐れていることが多いのです。
トラウマの原因は自分の外側にあるかもしれませんが、今や私たちの敵は加害者ではなく、自分を襲う身体感覚かもしれません。
不快な感覚に乗っ取られるのではないかという不安から体は凍り付き、心は閉ざされたままになります。
過去の辛い出来事にいつまでも怯え、無力な感覚を生み続ける、この負のスパイラルから抜け出すことが非常に難しいのです。
変るためには、まず自分自身に心を開かなければいけません。
その第一歩となるのが瞑想なのです。
瞑想により、心が感覚に意識を集中することを許し、永遠に続くと思える不快な感覚は一時的なもので、姿勢のわずかな変化や呼吸や思考の変化で変ることに気づくことができます。
次にそれを言葉で説明できるようになると良いでしょう。
例えば「胸が締め付けられる」や「はらわたが煮えくりかえる」などの言葉で説明できるかもしれません。
その後、その感覚に意識を集中し、ゆっくりと息を吸ったり、吐いたりするとその感覚がどう変化するか観察します。
泣きたくなったら泣いてもいいのですが、その後、自分の感覚がどう変化するかを知ることが大切なのです。
瞑想を実践すると交感神経が落ち着くので、トラウマによる過覚醒状態に陥りにくくなります。
自分の身体的反応を観察して、それに耐えられることを学んで初めて、安心感を得ることができるのです。
今感じていることに耐えられなければ、過去にも未来にも安心して心を開けないでしょう。
ある瞬間、胸が締め付けられても、深く息を吸い込んで吐き出せば、その感覚は和らぎ、肩の筋肉の緊張など、何か他のことに気づくかもしれません。
マインドフルネスは自分の体の中を覗くカメラのようなものです。
マインドフルネスによって心の中に散らばっている負のエネルギーを集約し、それを生きるためや問題解決のため、自分を癒すためのエネルギーに変換しなければいけません。
マインドフルネス瞑想は数多くの精神疾患に有効であることが科学的に立証されているのです。
この後紹介する方法もすべて基本はマインドフルネスの原理を利用しています。
難しく考えることはありません。
最初は呼吸に意識を集中させるだけで十分なのです。
ゆっくりとした深い呼吸を数回するだけでも十分に効果を得ることができるでしょう。
②ヨガ
ヨガもマインドフルネス瞑想と同様に自分の内面で起こっていることを知り、自分をコントロールするための方法です。
薬や他の治療法で全く効果がなかった患者が、ヨガを十週間実習すると症状が著しく改善されたという報告もあるほど効果が期待できます。
私自身も感じたことですが、ヨガを実践することで自分をより深く知ることができ、今まで以上に自分を大切にしようという気持ちが自然とわいてくるのです。
トラウマを経験したことがある人ならわかるかもしれませんが、私たちは辛い症状を何かで紛らわせようとします。
それが依存となり、自分の首を絞め、さらに苦しい思いをすることになるのです。
ドラッグ、アルコール、タバコ、ギャンブル、危険な異性関係など。
これらは自分の感覚を麻痺させることで、一時的に辛い感情から逃れるための行為です。
また、カッティングなどの自傷行為も同様のことであると言えます。
知らず知らずのうちに自己を麻痺させる達人になってしまっているのです。
依存は一時的に気持ちを楽にしてくれるかもしれないが、病気の克服には何の役にも立たず、依存に代わる何か自分を落ち着ける方法を見つけなければいけません。
ヨガはその代わりになる可能性が充分にあります。
ヨガを行う上で一番大切なことが呼吸です。
瞑想のところでも説明しましたが、呼吸法を変えることによって、怒りや抑うつ状態、不安といった問題を改善できます。
また、高血圧、ストレスホルモンの分泌量の増加、喘息、腰痛といった幅広い医学的問題に効果的だと言うことが科学的に立証されているのです。
多くの人は自分の呼吸をほとんど自覚していないので、吸う息と吐く息に意識を集中させ、いくつかのポーズで呼吸を数えることを習得すれば、それは大きな効果となります。
また、ヨガの目的は正しいポーズをとることではありません。
その時々にどこ筋肉が使われていて、そのポーズに対して自分がどのように感じるかに気づくことが重要なのです。
色々なポーズをしながら、体の様々な部位で何が起こっているかを観察することでマインドフルネスを育てることができます。
トラウマを負っている人にとっては、体の中で完全にリラックスして身体的に安全だと感じることは非常に難しいです。
私たちの大きな課題の一つは、完全にリラックスして安心して身を委ねられる状態になることにあります。
そのためには本当の自分を知る必要があるのです。
本当の自分を知るためには、自己感覚を通して体とつながり、感覚を感じて、その意味を解釈できなければいけません。
その身体感覚を認識し、それに基づいて行動すれば人生を安全に歩んでいくことができるようになります。
自分の感覚を無視して、麻痺させることによって一時的に楽になるかもしれませんが、その代償として体の内部で起こっている出来事に気づかなくなり、思う存分生きていると感じられなくなってしまいます。
自分の内面との関係を再度築き、それとともに自分自身との思いやりにあふれた関係を復活させるにはヨガはすばらしい方法なのです。
ヨガの目的の一つが、自分の経験に耐え、内側にある不快な感覚と友達になり、新たな行動パターンを培う能力が自分にあるのを知ることにあります。
そのために、私がヨガをする上で意識したことは、自分の体に好奇心を持って接することです。
例えば「深く息を吸うと肩の緊張がほぐれるだろうか?」「吐く息に意識を集中させると穏やかだという感覚が生じるだろうか?」など自分に興味を持って問いかけてみてください。
このような質問により、自分が何を感じているかに気づくことで情動調整がしやすくなり、自分の体の中で起こっていることを無視しなくなります。
ヨガで重要なことは「感覚に意識を向けること」と「次にどうなるかを観察すること」です。
恐れではなく好奇心を抱いて自分の体に接し始めると、回復に向けた道が開けてきます。
また、優秀なヨガ講師の元でレッスンを受けることも有効かもしれません。
マインドフルネス瞑想やヨガを訓練するといつでも自分の内面に意識が向くようになります。
例えば、通勤や仕事中などに緊張して、すぐ肩に力が入ってしまう癖があることに気付くかもしれません。
私の場合は肩の緊張を感じたら、その場で二回ほどジャンプして肩の力を意識的に抜くようにしています。
昔は、全身が緊張していても、それに気づくことすらできませんでした。
気づきを得れば、対策が見えてくるのです。
ヨガについてはこちらの記事も参考にしてください。
③ソマティックエクスペリエンス(SE)
ソマティックエクスペリエンス(SE)はボトムアップの様々な技法の寄せ集めのようなものであり、大変重要な治療技法です。
SEはまずトラウマを後退させるために自らの資源(リソース)を増強させる必要がある。
自分の中に犯されることのない安全の島を確立するのです。
その上で、トラウマに関連する身体感覚に焦点を当て、自らの資源とトラウマによる身体感覚を行き来しながら、対応が困難な枠を超えない範囲で、ごくわずかずつ、トラウマとの交渉を行っていきます。
SEを短い文章で要約するのは非常に困難であり、興味がある方は別の記事で詳しいやり方を書いているので参考にしてください。
トラウマは私たちを、今この瞬間から過去に強制的にタイムスリップさせてしまいます。
そして、他者と適切に関わる能力も奪ってしまうのです。
SEによって、今ここにいる能力と、他者との社会的つながりを回復することができます。
SEはとても安全で魅力的なトラウマ処理法なのです。
④タッピング(TFT)
タッピングとはTFT(思考場療法)と言われ体に存在するツボを刺激する治療法です。
やり方はすごく簡単で人差し指と中指の二本の指でツボを叩くだけです。
これだけのことで本当に効果があるかと疑いたくなりますが、私には十分に効果があり、今ではなくてはならないツールとなりました。
なぜ効果があるのかを科学的に説明するのは現時点では難しいようですが、タッピングは世界中の多くの人を癒していることは事実であり、試してみる価値は十分にあります。
1つ言えることは体と心は繋がっているということです。
私たちは過去の辛い出来事やトラウマになるような出来事により生じた負のエネルギーが、発散されないまま体の中に閉じ込めらた状態になっているのです。
その未完了のエネルギーが私たちの意志とは無関係に湧き上がり、恐怖や不安、うつ症状、パニックなど様々な不快な感情として現れ、私たちを苦しめます。
タッピングは体の中に停滞しているエネルギーに再び流れを与え、そのエネルギーを安全に開放することができるのかもしれません。
実際に過去の辛い出来事やトラウマを思い出し、不快な感情に圧倒されそうになった時、タッピングが非常に効果を発揮するのです。
辛い出来事や不快な感覚に襲われているとき、特定のツボを刺激すると落ち着きを取り戻すことができます。
トラウマによるフラッシュバックに襲われた場合もタッピングによって抜け出すことが可能なのです。
ツボの具体的な場所は顔や上半身、手にあります。
顔は眉がしら、眉じり、目の下、口ひげ、あごで上半身は鎖骨、脇の下などです。(手のツボの説明は省略する)
試しにこれらのスポットをトントンと指先で叩いてみてください。
1秒に2回のペースで軽く叩くだけの簡単な作業です。
体の中に変化を感じ取ることができましたか?
人によって効果のあるツボの場所や回数は異なってきます。
自分に一番効くスポットを見つけることが非常に大切です。
私の場合は目の下と鎖骨のツボが一番効果を感じることができました。
不快な感情に圧倒されそうになったら鎖骨や目の下をタッピングし、自分自身を上手くコントロールできるようになったのです。
タッピング療法については他の記事で詳しく解説しています。
さらに私のお薦めはマインドフルネス瞑想とタッピングを組み合わせることです。
瞑想中に突如として嫌な思い出やトラウマが頭を駆け巡ることがあります。
その時にタッピングを行えば、気持ちを落ち着かせ、集中して瞑想を続けることが可能になります。
タッピングはうつ、不安、恐怖症、トラウマなどの幅広い治療に用いられています。
なぜなら、タッピングは否定的な感情から特定の記憶をすみやかに、かつ永続的に分離できるからです。
かつては耐えられなかった記憶にも感情的にならず、動じなくなります。
また、かつて恐怖やパニックを引き起こした状況に陥っても、タッピングにより平静をなることができるので、この上ない安心感を得ることが出来ます。
ツボの正確な場所やタッピングの詳しい方法を言葉で説明することは非常に難しいので書籍タッピング入門―シンプルになったTFT&EFTを参考にしてください。
ここまで正確に分かりやすくタッピングについて解説している本に私は出会ったことがありません。
タッピング(TFT)は今回紹介している方法の中で一番即効性があるものなので、ぜひ一度試して欲しいです。
⑤運動や芸術に昇華する
これまで紹介してきた方法で内部感覚と向き合えば、自分自身の本当の声を見つけることができるでしょう。
それを体や芸術を用いて表現できれば、体の中に凍り付いているトラウマを解きほぐす事ができるかもしれなません。
言葉では表現できない感情を芸術によって表現するのが芸術療法です。
芸術療法についてはこちらの記事を参考にしてください。
芸術にはトラウマを解放するパワーがあります。
自分でも気づいていなかった感情を代弁してくれている歌に出会うと自然と涙がでませんか?
一つの芸術作品が人生を変えるかもしれません。
また、昔から引き継がれている伝統的な歌や踊り、宗教的な儀式などには必ず意味があります。
人々に癒しを与える効果があり、そこにいる人達に自然と連帯感を生むことができるのです。
私の場合は演劇に参加したことで、芸術の力を認識し、病気回復のスピードを早めることができたので、その効果を紹介したいと思います。
私は演劇の中で自分の感情を正しく表現する方法を学ぶことができました。
トラウマを負っている人はたいてい、過去に言いたくても言えなかったり、行動したくてもできなかったりしたエネルギーが体の中に溜まっているはずです。
あの時、本当は怒りたかった、逃げたかった、泣きたかったなど。
また様々な葛藤(自分自身との葛藤、対人関係の葛藤、家庭内での葛藤、社会的な葛藤など)と共に生きています。
その心の葛藤を演劇の中で思う存分に表現するのです。
私がトラウマを負った原因は虐待や学生時代のいじめですが、その時いじめられた相手に言いたくても言えなかった怒りのエネルギーが、体の中に解放されず残っています。
演劇の中で怒りを表す場面があれば、その時の気持ちを思いだし、自分の声と体で演じることで、閉じ込められていたエネルギーを解放することができるのです。
また自分でも忘れていた思い、どれほど怯え、怒り、耐えていたのかを認識することができるかもしれません。
演劇のすばらしい点の一つが体の中に凍り付いたエネルギーを安全に解放できるところにあります。
話の構成が決まっているため、自分を批判したり、予想外の危険を感じる心配がないからです。
仲間達と共に集団での行動を通して、人生の辛い現実と少しずつ向き合うのことができます。
演劇を例に芸術の効果について考えてみましたが、歌や踊り、アートや運動など、何だってそれに集中し、没頭できるものを見つければ、人生の主導権を持ち、生き生きした感覚を取り戻すことができるでしょう。
人は誰しも何か上手くいかないことがあったり、落ち込んだりした時は運動し筋肉を動かしたり、何かに没頭して作業することが助けになるのです。
ただテレビを見ながらソファーに横たわり、トラウマによる過覚醒や低覚醒の恐怖に怯えているだけでは何の変化は起きません。
自分自身の声に耳を傾け、対話し、それを表現する方法を見つけなければいけないのです。
芸術はその助けになるでしょう。
ただし、一つ注意点として、自分の表現を人にどう思われるか気にしだしたら、逆効果になる場合があります。
他人の評価に怯え、恥の感情を感じてしまうと凍り付いたエネルギーがより強くなってしまいます。
現在の学校教育において音楽や図工、美術など表現に対して点数を付けていますが、このシステムのせいでどれだけの子供が芸術を嫌いになっているでしょうか。
人に見せるための芸術ではなく、自分の内面を表現するための方法として、評価を恐れず、楽しみながら取り組んでもらいたいです。
⑥EMDR
EMDRは左右の眼球運動を行うことでトラウマ処理を行う方法です。
トラウマ記憶との間に心理的距離がとれることを偶然に発見したことから発展してきたトラウマ処理法で、有効性に関する科学的な検証も十分行われています。
EMDRはトラウマの痕跡に安全にアクセスでき、トラウマ記憶をずっと昔に起こった出来事についての記憶に変えられることができるのです。
トラウマを想起しながら、眼球を25回から30回ほど左右に動かすことを続けるとトラウマ映像が変化していきます。
最初に標的としたイメージとの距離がとれ、想起にまつわる苦痛が薄れていくのを感じ取れるでしょう。
それにともなって、最初は想起されなかった新しいイメージが浮かび上がり、心理的苦痛は軽減されます。
EMDRはトラウマ処理の画期的な方法であることは間違いないですが、欠点は熟練した専門家の元で治療を行わなければいけないことです。
最初から自己流でやることは、逆効果になる可能性がありとても危険です。
しかし、今の日本ではEMDRがあまり普及しておらず、治療を受けられる場所が少ないことが難点かと思います。
EMDRはトラウマ処理に高い効果を示していることは間違いなく、今後日本でも普及することを期待されます。
EMDRの詳しい解説は他の記事でも書いているので、そちらも参考にしてください。
3、まとめ
トラウマと直接戦っても、私たちには勝ち目はないでしょう。
それくらいトラウマは危険な相手なのでです。
トラウマを劇的に治す方法は存在しないし、すべての人に効果のある方法もありません。
トラウマを癒すためには、体の中に凍り付いてしまっているエネルギーを少しずつ解放させるしか方法はないのです。
冒頭でも述べましたが、トラウマ記憶の言語化は危険です。
より、強固なトラウマになってしまう可能性があるからです。
人が再びトラウマを負うことなしに、トラウマを引き起こした過去に立ち戻る方法を見つけなければいけません。
今回紹介した6つの方法がそれに当てはまるのです。
ゆっくりで良いから、できるものから試し、自分に合ったものを取り入れて欲しいと思います。
そして、自分だけの最善の治療法を見つけ出してください。